クオリアクオリア

未知なる感覚質を求めてー。

ヒッチハイクオリア ー どんな今でも、この時点から肯定する。それがいつだって切り札になる。

長野から静岡へ移動しようという日の早朝。なぜか、木々の凍る浅間山を登っている。スーパーマリオの裏面行くための隠し扉みたいなものが山頂にあるかも、しれないだけでもちろんなかった。(ナイスチャレンジ!)

 

今日のトールルート

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「なんとしてでも今夜中に静岡にたどり着く。」そう心に誓っていざ出発。浅間山の山頂にあるホテルの大きな駐車場にはお目当の静岡ナンバー(目的地である静岡ナンバーの車が乗せてくれたらフィニッシュ!と最初から最高な絵図を描いている)は停まっておらず、友人の車でひとまず下山して国道へ。そして始まっていく人生史上一番きつかったヒッチハイク道。本編に入る前に、おさらいしておきたいのはこの時携帯の回線がストップしていたということで、今でこそ「こんな地理だったのか!」と納得するが、ヒッチハイクの最中は周囲の地理がわからないとかなりご苦労するぞ。

 

鬼門その1・山奥のインターチェンジ

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長野の下道を1時間ほど乗せていただいたお兄さんにお礼を言い、降り立ったのは長野県の山奥、岡谷インター手前の駐車場。このインターから高速に乗って静岡方面に行きたい、という局面。

 

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16:00

あたりはもう薄暗い。列をなした車が山奥のまっすぐな道路をかなりのスピードで走り抜ける。この道に慣れ親しんだツワモノ揃いの行列だ。

 

思いつく限りの場所に陣取って親指を上げる。が、なかなか車は止まらない。肝となるのは高速直前の交差点。渋滞を避けるためだと思うけれど、トンネルを抜けてきた車は信号が赤でもノンストップで曲がっていくことができる仕組みだ。つまり、ツワモノたちはブレーキをちょいと踏みながらスーパースピードで交差点に侵入し、どんどこ高速に向かう。そんなこんなでヒッチハイクを始めて数十分、よくよく観察していると運転手の方に目を合わせてすらもらえていないことに気づき「可能性0じゃん...」と悶絶する。

 

次に陣取ったのは上の画像の赤いポイント。トンネルを出てきた車が道端にいるヒッチハイカーに気づき駐車場に入っていくという寸法だ。暗い山道では運転手の視界もきっと狭い。なんとか車のライトが自分に当たるように、姿勢を低くして健気に左手の親指を大きく掲げる。不良のような座り方では心象がきっと悪いので、プロポーズをするときのように紳士にしゃがみこむ。

 

しゃがんだ姿勢のまま振り返り、駐車場に車が入るのを目視したら、すぐにPCやカメラ等機材が入っている大事だけど超重たいケースを抱え車に向かってダッシュする。速攻で話しかけるもほとんどの車から「松本方面なんですよねぇ。。」と言われる。というか、ヒッチハイカーを乗せるために駐車場に停まった訳ではなくタバコとかトイレとかそういう用のためだった。こりゃダメだ、とわかり次第ダッシュでトンネル脇の所定の位置へと戻り笑顔でサムズアップ。走る・喋る・走る・笑う・走る・喋る・走る・笑う...こんなことを繰り返していて心身共に疲弊してきた時に、ふと「おれは走るためにヒッチハイクしてるんじゃない!」と心に浮かび、泣きそうになる。そうだ!と何度も心に喝を入れ、俺は今静岡に向かって走っているのだ、とイメージしながら走っていると自然と笑顔になる。

 

20:00

怪しげな男が駐車場に止まる車全台に声をかけまくる事案が発生しているが、人からどう思われるかを気にしていたら何も始まらない、と心底で思う。そして、最終的には「ごめんね、そっち方向じゃないんだわ」と丁重に断られたにも関わらず「そこをなんとかお願いします!!!!」と頭を下げるまでに至り、ついに「しょうがねえな。今仕事中だけど乗せてってあげるよ。乗んな。」と満面の笑みを浮かべたおじちゃんが乗車させてくれる。

 

諏訪湖サービスエリアにて降ろしていただきひとりご飯を食べる。寒さでガチガチだった足先、手先まで豚汁が染み渡った。トイレに行くと(このSAに来て早速声をかけたけどダメだった)老夫婦と出くわす。奥さんは旦那さんの腕に捕まって歩いていて目があまり見えてないようだ。奥さんが「ごめんねぇ、悪いねぇ」と言うので「そんなことはありません!こうしてお話させていただけるだけでとても嬉しいです!」と返す。品のよい仲睦まじい老夫婦で(旦那さんはヨレヨレの白いランニングを着用していたけど)見とれてしまった。うーん、心まであったまりますなぁとほのぼの。

 

トイレから出ると軽自動車に乗っているおひとりの女性を目視。ナンバーは所沢(埼玉)「ひとりだし一応方向も一緒だけど99%断られるだろうな」と諦めた直後「いやいや声かけなかったら100%乗れないのだからこの小さな可能性の芽を自分で摘んだらあかん!」と喝を入れてなるべく優しくゆっくりめの語調で声をかける。彼女からの一言目で「怖い人ですか?」と聞かれ、予想してない言葉に一瞬??となったのだが、なぜか咄嗟に「ぼくも怖いです。」と答えていた。すごく正直な言葉だったなと思う。彼女は「運転下手くそですけどそれでもいいなら。」と乗せてくれた。しかし、ハンドルを握ると豹変するタイプだったのか、早口で「私今岐阜にいる彼氏に会って来たんすけど、埼玉からそのためだけに岐阜に行くのマジキモくないっすか?しかも彼氏いっこ下なんですよねーマジキモくないっすか?」と、どんな意味合いで使っているかわからない『キモい』を連発しながら、時速120kmでかっ飛ばす軽自動車の助手席はマジで怖い。「怖いよ」と伝えると、彼女は「120kmってほんとーに捕まるんすか?まじありえないんすけどー!」と明後日の方向に返事をしながら前方を走るトラックを煽っていた。

 

24:00

そんな彼女と山梨県にある双葉サービスエリアにてお別れする。思った以上にここは車のいない場所だ。24時、それでもなんとかなって欲しい気持ちに願をかけてカツカレーを食べる。誰もいない深夜のサービスエリアはとても物寂しい。でも、高速道路を車が走り抜ける音は聞こえる。この時間帯でもお仕事をしている人たちがたくさんいるのだ。俺も頑張らねば、と思って目を閉じる。閉じた瞬間に寝た。(今日中に静岡に着きたかったけど、おっけー!)

 

9:00

ザーザーと雨が降っている。傘はないけどどうにかしよう。むくっと起きて歯を磨いて髭を剃って身だしなみを整える。まずは印象から、大事だね。大切なケースに雨が当たらぬように自分の服を着せて抱え込む。

 

鬼門その2・双葉サービスエリア

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屋根の下にベンチがありそこに座って車が来るのを待つ。車が来たら駆け寄ってナンバーを確認する。数十台見ても静岡や静岡より更に西のナンバー(浜松・豊橋・三河・岡崎)は見当たらない。それならば、とほぼ東京方面へ行くであろう車に片っ端から声をかけ「奇跡的に次のインターで降りて静岡方面に行きませんか?」と尋ねる。当然だけど、ここから静岡に行く人はそうそういないようでことごとく断られる。ちなみに話しかけるタイミングは運転手が車の近くにいる時か車に乗っている時のみで、そうじゃないと誰がどの車に乗っているかわからない。タイミングを逃すと、話しかけたかった車がすでに出発していなかったり、運転手が戻って来るのをただひたすら雨に濡れながら待つ(そしてあっけなく断られる)ことになるのでとにかく元気よく走るのだ。

 

雨に濡れ水も滴る浮浪者となったからかたくさんの人にあしらわれる。目すら合わせてくれない人。「無理」とだけ言う人。目を合わせた途端、窓越しに手を横に振る人。「色々寄るところあるんで」となんだか本音じゃないような人。その全てのみなさまに「お気をつけて!」と笑顔で挨拶し、速やかに雨宿りのベンチに戻る。ひたすら雨は降り続き止むことはなかった。

 

身も心も雨に濡れた心境でそれでもやけくそでニカっと笑い、ドライバーさんに誠意を込めて話しかける。「営業やってたサラリーマン時代よりも営業してるぜ〜〜!!」とテンションが上がる。「肩書きのない自分を売り込むぜ〜!!」とアゲアゲヒッチハイクを続けていると、先ほど声をかけて断られた人が逆に声をかけてくれた。「にいちゃん、これ使いな。」渡されたのはビニール傘だった。神さま。マジで本当に、マジで本当にありがたい。ありがとうございます。ご先祖さまありがとうございます。大切で重たいケースを地面に置きそっと傘をかける。片手に傘、片手にケースを持つと雨の入射角的にケースが濡れてしまう。自分は濡れてもおっけーなのだ。

 

15:00

そして、15時を過ぎた頃、ついに静岡方面に行く車に乗せてもらう。静岡までは行かないけれど、駿河湾沼津SAという静岡までもうすぐのところまで乗せてくれることになる。運転手の方は男性で僕の父と同じ年齢でよく喋る。「いやー俺個人で大工やってるんだけどさ、東京の社長がこないだ8千万で長野の白馬で買った家と土地を手放したいって言っててそれが1千万でも買い手が見つからないらしんだよな。でさ、売るためにリフォームしに行ったんだけども、二階の水道管が凍結で破裂して漏れ出した水で床が腐ってもうどうしようもねえってか、空気入れ替えるためにたまには行ったらいいんだけどよ、半年間も放ったらかしにしてるもんだからさ、そんなんじゃどうしようもねえよなあ。」こんな調子でその社長の彼女が現役のアイドルだとか、熱海や伊豆には放ったらかしになっている別荘がたくさんあるだとか、たくさん話してくれる。家族のことについて聞くと「息子は亡くなったんだけどもさ、娘二人はもう嫁に行ったよ。今は奥さんと二人。」そう言ったあと、お父さんは黙ったままだった。10分くらいだっただろうか、何も聞かず何も言わない時間がなんとなく心地よく、窓の外の景色は過ぎ去っていく。「人間生きてりゃ色々あるぜ〜〜!!!」

 

17:00

駿河湾沼津サービスエリアに到着する。残りの体力も少なく静岡での大事なおしごとのリミットもそろそろ限界ということもあり、もはや見境なく運転席で寝ていた方すら声をかけておこす。それが功を奏し、到着してから約3分。静岡まで乗せてもらえることになる。

 

19:00

体調、悪化。

所持金、二千。

目的地、到着。 

 

 

ヒッチハイクに限らず、肩書きのない生活を続けている。肩書きがないとあからさまに冷たくあしらわれることもある。でもそんなことで落ち込んでいる場合ではない。お金を持って肩書きを持って綺麗な服で自分を飾るよりも、今のこの時点から自分を自分で肯定していく場合だと思う。どんな今でも、なんもなくても、この時点から肯定する。それがいつだって切り札になる。

 

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馬鹿は生きなきゃ治らない└( ^o^ )┐





 

 

 

 

 

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